学芸の小部屋

2022年2月号
「第11回:色絵 龍鳳凰文 鉢―伊万里焼の中に見る龍の種類―」

 寒さが一層厳しい時期。一方でだんだんと日が長くなってきており、春の兆しも感じるこの頃です。今月は『古伊万里幻獣大全展』(会期:2022年1月7日~3月21日)にちなんで、伊万里焼の中に見る龍の種類に注目して作品をご紹介していきます。

 龍の種類については諸説ありますが、その形姿の違いによってそれぞれ名前が付けられています。鱗のあるものを蛟龍(こうりゅう)、翼のあるものを応龍(おうりゅう)、角のあるものを虬龍(きゅうりゅう)、角のないものを螭龍(ちりゅう)と言います。 中でも伊万里焼の中でよく見かけるのは螭龍。頭が大きく、蜥蜴や蛇のような体に鱗を持たない姿で描かれます。初期から時代を問わず見られるのが特徴です。次に角が無く鱗と鬣(たてがみ)を持つ蛟龍(蛟/みずちとも)、角も爪も鱗もある立派な龍(虬龍)も初期から確認できます(図①)。



 今月ご紹介する「色絵 龍鳳文 鉢」(図②)には、龍が複数確認できます。染付の青色で見込に龍と鳳凰を描き、口縁部の窓枠、外側面にも宝珠を追って雲間を駆ける龍が描かれています。



 本作に描かれた龍はよく見ると少しずつ違いが見られます。まず、見込に描かれているのは、恐らく蛟龍(こうりゅう)でしょう。髭や鬣、鱗はありますが角が無い龍です。口縁部の窓内には螭龍(ちりゅう)が描かれています。角のない大きな頭とつるりとした体に手先の丸まった爪のない四肢が特徴。外側面の2匹の龍はそれぞれ髭、鬣、爪が描かれています。一見同一種かと思いきや、口を開いている方は角がある虬龍、口を閉じている方は角がない蛟龍と描き分けられていることに気が付きます(図③)。



 上記の様に本作だけでも形姿の異なる龍が3種あらわされています。基本的に作品名や解説に登場する際には、龍の種類まで細かく触れることは殆どありません。描かれ方によっては判別が難しいことから形姿がわかりやすい螭龍以外はまとめて「龍」と記載されがちです。また、製作年代の特色として描き方の変遷を追うことは可能ですが、器種や用途、時代による描き分けなどは管見の限り確認できませんでした。
 わざわざ複数の種類の龍を描き分けているのは果たして注文主の依頼なのか、元になる陶磁器や手本からの影響なのか、根拠は定かではありません。いずれにしろ、江戸時代の百科事典である『和漢三才図会』(わかんさんさいずえ/寺島良安 編/1712年序)や図案集の『新撰紋所帳』(しんせんもんどころちょう/1833年序)などにも龍の種類が細かく記載されており、江戸時代の人々は龍の種類に対してある程度、知識があったのではないかと考えます。

 ちなみに、本作の外側面の宝珠を追って雲間を駆ける虬龍と蛟龍は、中国では什器や家具などに見られる「二龍戯珠」と呼ばれる吉祥の図案です。また本作の見込に描かれた龍と鳳凰は、天下泰平や高貴、結婚の喜びを示す吉祥の組み合わせ。こうした中国の影響が見られる組み合わせの中にあっても、伊万里焼にあらわされる龍の形は様々で定形をみません。

 伊万里焼には多種多様な龍文があらわされており、それらは時代や組み合わせ問わず描かれていました。中には区別が難しいものもありますが、概ね描き分けられているとみてよいでしょう。
 作品ごと、あるいは一つの作品のなかでも多様な姿を見せる龍文。ご鑑賞の際には作品名は同じでも異なる表現の文様を探して比べてみてください。

(小西)



【参考文献】
大橋康二『古伊万里の文様』理工学社 1994
『特別展 吉祥 中国美術にこめられた意味』東京国立博物館 1998
野崎誠近 著 監修・解説 宮崎法子『吉祥図案解題―支那風俗の一研究―』ゆまに書房2009

デジタル資料
寺島良安『和漢三才図会』1712年序 文化7年版 国立国会図書館デジタルコレクション
(https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2569726?tocOpened=1) 2022/1/29最終閲覧
『新撰紋所帳』1833年序 国文学研究資料館 三井文庫旧蔵資料 新日本古典籍総合データベース(https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/200018400/) 2022/1/29最終閲覧


Copyright(c) Toguri Museum. All rights reserved.
※画像の無断転送、転写を禁止致します。
公益財団法人 戸栗美術館