日ごと強まる寒さに冬の気配を感じるこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
開催中の『伊万里・鍋島の凹凸文様』の会期も残すところ僅かとなりました。今月の学芸の小部屋では、出展作品から「白磁 花文 瓢形皿」(①)をご紹介いたします。
瓢箪形とした器形に凹凸文様で瓢箪の花や葉、蔓をあらわした白磁の皿。裏面の高台は器形に合わせた変形の付け高台であることから、糸切り成形(註1)の技法を用いたことがうかがえます。
ただし、本作の場合は凹文様であらわされている葉脈が深く細いことから、型を使用して成形したあとで、別の道具を使用して葉脈を彫り込んだ可能性も否めません(②)。以前、戸栗美術館では釉薬のテストピースを作るにあたり、本作を元にした土型を制作したことがあります(③)。その際に、型で葉脈をあらわすための凸部分を元作品に合わせて細く作った結果、型を打っている最中に土型が破損。細部であっても、適切な太さがなければ耐久性が足りずに土型の劣化を早めてしまうことがわかりました。
この凹文様の葉脈は型による表現か、それとも彫り技法によるものか。その謎を解く鍵は、組物にありました。
ここで言う組物とは、一揃いで伝世した作品のことを指します。本作は同形同意匠の5客揃いの組物です。1客ずつ凹凸文様の抽出を行い(④)、件の葉脈部分を軸として画像を重ねたところ、文様全体が綺麗に重なりました(⑤)。
人の手によって作られ、かつ高温で焼成されているものですので、大きさの差違やゆがみなど多少のズレは生じていますが、5客とも同じ文様が同じ位置に同じようにあらわされています。さらに、肝心の葉脈部分は、本数や細さなどが5客ぴったり合致することから、型によってあらわされたものとみてよいでしょう。
なお、前述のように型は使用しているうちに劣化していきます。破損の度に修復したり、作り直したりするため、現代に伝わっている作品の中には組物であっても一点一点細部が異なっているものもあります。当館所蔵の本作については、5客ともに文様の一致が著しく、同一型を用いた作例であることが推察されます。
組物として複数伝世している場合には、うつわ同士を比較することで、その詳細を考えるきっかけになることがあります。今展ではこうした組物を多数出展しております。少し表情が異なったり、全く同じであったり、様々な製作状況を想像させる凹凸文様の表情をお楽しみいただければ幸いです。
(小西)
(註1)糸切り成形とは、板状に切り出した粘土を型にあてて成形する技法。
【主な参考文献】
・佐賀県立九州陶磁文化館『古伊万里の見方2 成形』佐賀県立九州陶磁文化館2005
・佐賀県立九州陶磁文化館『古伊万里の見方3 装飾』佐賀県立九州陶磁文化館2006
・兵庫陶芸美術館『型が生みだす、やきものの美-柿右衛門・三田-』同2010