現代の食卓を飾るうつわにもしばしば描かれている唐草文様。古くは中東を起源とし、ナツメヤシやハスなどの植物文様が原形と言います。中国・朝鮮半島を経て日本へ伝来して以降、仏教装飾はもちろん、様々な工芸品にあらわされてきました。17世紀初頭に誕生した伊万里焼では初期から皿縁に装飾文様として用いるほか、主文様としてうつわ全体にあらわした作例もみられ、その意匠は花唐草・蛸唐草・みじん唐草へと展開していきました。
また、唐草は単なる装飾としての役割だけでなく、連続して繋がる様に“子孫繁栄”や“長寿”などのイメージが重なり、それ自体に吉祥の意味が付与されました。“永遠に続く幸福”を願う人々の思いを背景に、18世紀以降、伊万里焼の定番の文様として庶民の間にも広く受け入れられていきました。
今展では、17世紀初頭から19世紀前半にかけて製造された唐草文様の伊万里焼を約70点展示。江戸時代より人々の暮らしの中で愛されてきた古伊万里唐草の魅力に迫ります。
<出展予定作品:染付 蛸唐草文 手焙 伊万里 江戸時代(18世紀前半)高20.8㎝>
戸栗美術館は1987年、全国でも珍しい陶磁器専門美術館として開館いたしました。約7000点に及ぶ収蔵品の礎を築き上げたのが、実業家・戸栗亨(とぐりとおる)です。
戸栗は、戦後の日本の生活文化の著しい変化を前に、生活の道具の収集・保存を志すようになります。次第にその中でも古陶磁に惹かれ、熱心に求めました。その膨大なコレクションが初めて世に出たのが、1984年11月から1985年1月にかけて東京都渋谷区立松濤美術館にて開催された『戸栗コレクション 有田の染付と色絵―伊万里・柿右衛門・鍋島―』でした。100点以上が出展され、「有田磁器の特色としての国際性と多様性が十分にうかがいうる」と評されたこの展覧会は、戸栗コレクション展示の原点とも呼べるものです。
今展では当時の出展品を再結集。来年に迫った開館30周年を前に、伊万里焼名品とともに、戸栗コレクションのあゆみを振り返ります。
<出展予定作品:色絵 牡丹文 瓶 伊万里 江戸時代(17世紀中期)高47.0cm>