展覧会概要
古代より工芸品や絵画のモチーフとして親しまれてきた動物文様。江戸時代、17世紀初頭に誕生した伊万里焼にも、さまざまな動物が描かれています。
器面上に登場するのは、鳥や兎などの身近なもののほか、虎や象のように江戸時代には珍しかった動物や、龍や獅子といった吉祥的な意味を持つ瑞獣たち。同じ動物であっても、写実的に描かれたものから簡略化されたもの、意匠化されたものなど、当時の流行を映し出した多彩な表現を見ることができます。
また、17世紀後半には、文様のみならず動物をかたどった変形皿や置物など、造形的な作品も数多く生み出されました。
今展示では、動物をモチーフとした伊万里焼を図鑑になぞらえてご紹介いたします。動物たちの愛らしく、生き生きとした表情をお楽しみ下さい。
展示構成
■哺乳類
【虎】食肉目 ネコ科
虎は中国では絵画をはじめとして、工芸品の文様としてもたびたび描かれた画題。伊万里焼でも17世紀はじめの早い段階から虎文様が見られる。ただし、江戸時代には実物の虎を見ることができなかったためか、伊万里焼では猫のような姿で表わされており、滑稽さも感じられる。幕末にいたるまで流行に左右されることなく描かれ続けた虎文様は、伝世数も多い。戸栗美術館の創設者・戸栗亨が寅年であったことから、特に好んで蒐集したモチーフ。
【兎】ウサギ目 ウサギ科
兎は江戸中期頃より一般家庭でも飼育されるようになり身近な存在となったが、文様としては飛鳥時代に最古の例が見られる。中国の古染付(こそめつけ)にも兎が描かれており、その影響を受けて伊万里焼では特に初期に作例数が多い。月に兎、波に兎など神話や謡曲を題材として、特定の組み合わせで描かれることも。
■昆虫
【蝶】昆虫網 チョウ目
生活の中で身近に存在する蝶は、その優美な美しさから平安時代より染織や漆工など、さまざまな工芸品の文様として用いられた。伊万里焼では初期から幕末まで描かれたモチーフ。17世紀後半頃には蝶をかたどった日本独特の変形皿も生み出された。
■瑞獣
【龍】
中国では皇帝の象徴として、工芸品や宮廷用の器物に表わされている。長い角と髭を持ち、体を鱗で覆われた威厳のある姿が主流。日本でも金襴や緞子、能装束や歌舞伎衣装、水墨画の画題などに幅広く用いられている。空想上の瑞獣だが、江戸時代には実在するものと考えられていた。伊万里焼では初期には少ないが、中国の金襴手を手本とした古伊万里金襴手様式(17世紀末~18世紀)に特に多く見られる。