学芸の小部屋

2024年2月号
「第11回:伊万里焼に描かれた鳥の顔貌表現」

 寒さ厳しきこの頃、梅の開花を待ち遠しく思います。
 今月の学芸の小部屋は、現在開催中の『花鳥風月―古伊万里の文様―』(~2024年3月21日(木))出展作品から、「色絵 孔雀文 皿」(図1)の顔の表現に注目してご紹介いたします。



 本作は見込に四角い窓を設け、その中に岩場に佇む孔雀を描いた皿。孔雀の周囲には牡丹をあらわしています。牡丹と孔雀は双方華やかな姿が好まれて、絵画作品を中心に描かれてきました。本作は、牡丹と孔雀という伊万里焼ではそう多くないモチーフの取り合わせであることに加えて、上絵具のグラデーションによる岩肌や、切り立った崖壁の描き方は絵画的な立体表現を彷彿とさせます。おそらく、意匠の背景に絵画制作に造詣のある人物がいたのでしょう。

 伊万里焼の文様と時の画壇との関連性はこれまでも多くの研究者によって取り上げられ、特に、江戸時代の一大画派である狩野派との関連性はしばしば指摘されています。狩野派とは、狩野家を中心とした血縁で繋がる絵師集団のこと。室町時代以降、常に時の政権に従い、江戸時代の終焉まで幕府御用絵師の地位を守りました。舶来の漢画に加え、やまと絵、水墨画といった国内の絵画の伝統を学習した狩野派の画技や図様は、江戸時代の美術・工芸全般に影響を与えました。

 伊万里焼にも、その片鱗を垣間見ることができます。本作では、斧で切ったようなざっくりとした岩肌の左側の岩や孔雀の足元の襞を重ねていくような岩の表現に漢画やこれらを学んだ国内の水墨山水画からのエッセンスを見出せます。また、岩場にたつ孔雀の左右に花を配置する構図は、狩野探幽(1602~74)の「探幽縮図」(その多くは探幽による名画鑑定の手控えとしての古画模写)のなかの一図に似通います(図2)。



 さらに、孔雀の顔貌表現は『画図百花鳥』に描かれる孔雀と近似しています。『画図百花鳥』は狩野探幽、狩野常信(1636~1713)筆の『百花鳥』と呼ばれる画帖を縮写・模刻したもの。探幽の次男である狩野探雪(1655~1714)の門人であったとされる石仲子守範(生卒年未詳)によって、1729年に公刊されました。花鳥の組み合わせ100種類を掲載し、ひとつの題に対して、画と俳句、和歌、漢詩、それぞれのモチーフの彩色方法が解説され、狩野派の画技を広く伝えることを目的として出版されたものと考えられています。

 伊万里焼で孔雀を描いた作例はそれほど多くありませんが、本作の孔雀の顔は特に目元が印象的です。『画図百花鳥』の孔雀と比較すると、くりっとした大きい目や細い頸の表現が似通います。さらに『画図百花鳥』の色指定を見ると、頭と脊中は青を塗るほか、目の中は朱、縁はえんじ、頬はあさぎ、嘴は墨の具といった指示が確認できます(※)。絵画とやきものとでは絵具の質も色数も異なるため、完全一致には至りませんが、色彩からも近似性を感ずることができそうです(図3)。



 ちなみに、本作の裏側には「鳳」字に似た判読不明の銘が染付であらわされています(図4)。同様の銘をもつ作例は少なく、本作の類品以外では見当たりません。陶片は、1650年代から1660年代にかけて上質な磁器を生産した長吉谷窯跡から出土していることから、特別な注文品であった可能性も考えられるでしょう。



 伊万里焼の図様に焦点を当てると、思わぬところで江戸時代の絵画や他工芸品の気風を感じることがあります。今回は描かれたモチーフを紐解くことで狩野派のイメージを抽出することができました。ただし、文様と完全一致の版本や絵画作品は見当たらず、絵画や版本などを参考にしながら、磁器の文様に落とし込んでいく際に図様の再構成が行われていることが想像されます。
 伊万里焼は当世の流行を積極的に取り入れて展開していったやきもの。少し作品の見方を変えると、文献資料には残りにくい当時の文化的な気風を絵画や工芸といったジャンルを超えて窺い知ることもできます。作品そのものの魅力を楽しむだけでなく、江戸時代の文化にいっそう親しむための橋にもなりえるでしょう。


(小西)


【主な参考文献】
・京都国立博物館編『探幽縮図』上下 同朋舎1980~81
・大倉集古館編『大倉集古館蔵 探幽縮図』同1981
・加藤定彦「狩野探幽・常信筆『画図百花鳥』考―縮写模刻版の流布とその影響―」『ことばと人間-立教大学言語人文紀要2号』立教大学言語人文紀要編集委員会2000
・佐賀県立九州陶磁文化館『古伊万里の文様集成』同2012

※文中『画図百花鳥』訳は筆者による。


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